世界の果てでダンドゥット

ダンドゥットは今、現在が一番おもしろいぞ!

Geboy Mujair; ロック・ビートとダンドゥットについて

注目の3人組が珍しいカバー。このトリオによくあるサンプリングによる女の子の掛け声はいっさいなし。最初から最後までロック・ビート(ドラムは人力だと思われます。他の楽器は打ち込みでしょう)

歌詞はインドネシア語。コミカルなストーリーで、よく判らんのだが、稚児さんに逃げられたムスターファを誘惑するってこと? それとも、女の子に逃げられたムスターファを誘惑するゲイ・ボーイってストーリーか?

歌詞にでてくる、nang ning nong というのはインドネシア/マレー語の擬音語で、金属打楽器の音、キンコンカン。ところが、これが英語にもあって、ning-nong というのは、頭のネジが緩んだ人、nang という形容詞はクールな、イカスという意味があるそうです。オリジナルのビデオはこの、英語の意味をビデオ化しているようです。う~ん、よく判らん。

Fira Cantika & Nabila Ft. Bajol Ndanu - Geboy Mujair (Official Music Video)
Premiered on 18 Feb 2022

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珍しい、と言ったのは、コプロ(ライブ)歌手のカバーが珍しいという意味です。この歌自体はものすごいメガ・ヒット曲。2010年代を代表する楽曲と言ってもいいでしょう。オリジナルはAyu Ting Ting。テレビ局の中継ライブやスタジオ・ライブはやりますが、コプロ歌手のような野外ステージで歌ったりしません。ましてや、場末のクラブや結婚式で歌ったりなんかしません。超メージャーな歌手であります。

音源はHITS Recordという、おそらく零細な規模の会社。ただし、このAyuちゃんの他に大物シンガーソングライターのAndmesh Kamalengも在籍。二人も大物がいればたいしたものです。

Ayu Ting Ting - Geboy Mujair [Official Music Video]
39,031,809 views21 Dec 2014

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ロック・ビートと書きましたが、おそらく、この〈ロック〉というレッテルに拒否反応を持つ方、鼻で笑う方もいらっしゃるでしょう。

現在の日本の40歳以下で〈ロック〉のイメージというのは、顔が悪くてアイドルとしてデビューできない連中、コンピューターやミキシング・マシンを使いこなせない機械オンチ、リズム感の悪いギター弾き、といったイメージが張り付いています。一方で、80年代のワールド・ミュージック・ブームから英語圏以外の音楽に興味を持った方々も、〈ロック〉というのはダサいおじさんの臭い音楽というイメージでしょう。森高千里に臭いものには蓋をしろ!と言われる音楽ジャンルでありますね。

ダンドゥットも最初、ロックに影響を受けたという誤った風評のせいで、近づかなかった方が多いでしょう。ロックのリズム感覚のカケラもないのに、本人はロックのつもりだった人もいますしね。ははは。

しかし、現在のダンドゥットのミュージシャンも聴く方も、ロックのリズムを受け入れる素地ができていると思われます。コプロのバンドでも前奏や間奏部など、ロック・ビートでガンガン飛ばすのは普通です。そして、上に貼ったようなロックをやれるミュージシャンも大勢います。おっと、ここで、本物のロック・ファンから物言いが来そうですね。いかにもロックだけど、やっぱり、ちょっとナマリがあるかな? でも、そういう純粋主義の方は、我慢して聴いてください。

断っておきますが、わたしはロックが叩けるから偉いとか、ダサいとか言いたいわけではありません。なんでも消化していくダンドゥットの雑多な魅力の一つとしてロック・ビートの歌も楽しもうじゃないかと言いたいだけです。

さて、オリジナルのAyu Ting Ting、1992年、ジャカルタ特別区に隣接するDepok生まれ。ほとんど首都圏といってよい大都市です。人口約250万人。

本人は、ダンドゥット歌手として扱われたくなかったようです。レコード会社としても、新感覚のダンス・ミュージック系ポップ歌手として売り出したのではないでしょうか? でも、この人、ダンドゥット歌手として認められ、全国ネットのテレビに出て、各種の音楽賞を総なめにしました。テレビで人気が出るダンドゥット歌手の典型、いや、最後の世代ではないでしょうか? 望む望まぬにかかわらず、ダンドゥットのジャンルに入れられてしまったのです。

ところが!

なんと、Ayuちゃんにも、ダンドゥット歌手という暗い過去があったのです! このGeboy Mujair もAkurama Recordsという零細な会社から2007年に出たものの改題・改作です。

長くなったので、別記事にします。事項では、ジャカルタ主導のテレビや音楽賞についても考察するつもり。乞う、ご期待!