世界の果てでダンドゥット

ダンドゥットは今、現在が一番おもしろいぞ!

Ayu Ting Tingとダンドゥット旧守派の2010年代

前項に引き続き、Ayuちゃん、いや、Ayu Ting Tingさんの過去。

2006年発表のアルバム。

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4;48あたりから始まるのが、Geboy Mujairの元歌、Goel Mujair。Akurama Recordsという、おそらく零細な会社からのリリース。歌い方も1990年代からのダンドゥット歌手そのものだし、バックもたぶん人力主体、打ち込みではない。後の2010年代のヒット曲、Alamat Palsu,、Miyak Wangi などもこの時期にすでにレコーディングしているのです。

ところがですね、すでにこの会社からリミックス物が出ているのですね。

これ面白い! ゴジラのテーマみたいなイントロで、男性コーラスの掛け声、ヒットの要素が盛りだくさんではありませんか。

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発売時期が以下のデータでは、7曲入アルバムが2006年になっている。だとすれば、元歌とほぼ同じ時期(同時に?)これを出したのか。

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このあと、1012年に全国ヒットが出るまでの経歴不明。大学に通っていたという情報もあるし、実際卒業しているらしいが、4年も5年も空白があって、別のレコード会社が拾ってくれたのだろうか。ともかく、HITS Recordというかなりしっかりとした会社からビデオを出して、全国ヒットの最初がこれらしい。発売が2011年という情報もあるが、Spotifyでは2012年。つまりもう、10年も前かあ……。

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この歌はコプロ歌手からたくさんカバーされた。この種の打ち込みトラックにかぶせた物は、4つ打ち強調のディスコ系かヒップホップ系が多いのだけれど、このリズムって、デスメタルスラッシュ・メタル風ですね。Ayu本人、もしくはスタッフがこの音作りを意識したのでしょう。

以下、憶測が多くなる。

本人、会社の思惑は推測するしかないけれど、ともかくSNSやストリームで流行って、ダンドゥットというカテゴリーに入れられた。2013年、2014年のAnugerah Musik Indonesia(インドネシア音楽賞〉ではDangdut Kontemporerという奇妙なジャンルに入れられ、女性歌手部門大賞受賞。旧守派として苦肉の策でしょうか?

もともと選考基準もはっきりしないし、毎年毎年新しい部門が作られる賞にとやかく言ってもしょうがないけれども、旧守派としては自分たちの古い権威も守りたいけれど、テレビに出せる新しいタレントも欲しいといった所でしょうか。コプロ歌手の泥臭さがなく、おまけに大学も出ているAyu Ting Tingさんは、業界の思惑のニッチに合った歌手だったわけだ。テレビの出演も途切れず、現在でも人気を維持しているようだ。

ここで、疑問なのは、テレビに出演するって、ギャラの面でどうなのか? 出演料って、そんなに貰えるのか? ま、日本でYoutubeを見ているだけのファンが心配することないけれど、ちょっと気になる。

ただ、現在の歌手・ミュージシャン・プロダクション、みんな音楽賞やテレビ出演をそれほど重くみていないと思う。〈テレビはオワコン〉というネット周辺の声に同調するわけではない。テレビって、この先もしぶとく生き延びるような気がする。ただ、音楽を発表する場としての役割は、そうとう小さくなってきていると思う。Ayuさんは、そのテレビ時代の最後のスターとなるかもしれない。

テレビ局やそれに癒着する旧勢力に距離を置き、戦略を模索しているはずだ。正面からケンカを売ることはしないだろうけれど。インドネシアの場合、中央のジャカルタ以外にもFMラジオもレコード会社もライブ・ハウスも地方都市にあるし、それになんと言ってもコプロ(koploライブ・バンド)があるからね。

ちなみに上記の音楽賞の2021年では、Artis Solo Pria/Wanita/Grup/Kolaborasi Dangdut Elektro Terbaik(ソロ男女・グループ・コラボのエレクトロ・ダンドゥット)という部門が作られ、次のが大賞受賞。

Ayu Ting Ting - Cemburu Mantanmu (Official Music Video)

4,141,872 views Premiered on 27 Jul 2020 これが2021年の賞

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