天皇がジョクジャカルタの王宮に招かれ、歓迎の行事と晩餐会が行われたニュース。日本のメディアが伝えない内容も、あちらの公式サイトで詳細が報道されている。
Karaton Ngayogyakarta Hadiningrat - Kraton Jogja 王宮の公式Youtube
Portal Resmi - Pemerintah Daerah Daerah Istimewa Yogyakarta ジョグジャカルタ特別州公式サイトの入り口
Yogyakarta Palace Warm Banquet for the Emperor of Japan - Kompas.idニュース・サイトKompas.idのニュース英語版。
「晩餐会の雰囲気は、ロイヤル・オーケストラの演奏による美しい歌で、ますます華やかになりました」その曲目は、 Padang Bulan, Pitik Tukung, Yen Ing Tawang, Lelo Ledung, Kupun Kui, Kidang Talun, Jenang Gula, Sluku Batok, Sue Ora Jamu, Pitik Walik Jambul & Jamuran.(下線のタイトルは、ジャワ歌謡・チャンプルサリの定番曲)
太字にした曲目が聴けるプレイリストが次で、演奏はすべて宮廷の西洋音楽オーケストラであるYogyakarta Royal Orchestra。Youtubeで開けば、各曲のアレンジ、キー、BPMなどのデータが載っています。歌はOmah Cangkemという音楽教育・伝承の団体のこどもたち。歌もダンスも、きっちり合わせた奴隷的パーファオマンスではなく、かなり緩くてバラバラなのが好感が持てます。笑顔もひきつった作り笑いではなく自然だ。ビデオの作りも高品質(3Dアニメはわたしには気持ち悪いけど)
Tembang Dolanan Yogyakarta Royal Orchestra Kraton Jogja 4/9
1 Gundul Gundul Pacul 伝承としてSunan Kalijaga (1450–1513)作
2 Jaranan by Ki Hadi Sukatno
3 Padang Bulan 伝承としてSunan Giri (1442-1506)作
4 Pitik Walik Jambul by Ki Hadi Sukatno
5 Jamuran by Ki Hadi Sukatno
6 Kidang Talun by RC. Hardjasoebrata(1905 - 86)
7 Pitik Tukung 作詞作曲者不明
8 Kupu Kuwi by RC. Hardjasoebrata
9 Sluku sluku Batok 伝承としてSunan Kalijaga作
2,4,5の歌を作ったのが、Ki Hadi Sukatno (26 Mei 1915 – 10 November 1983) 。スワルディ・スルヤニングラットの教育理念に共鳴し、多くの詩・歌・物語・劇を創った。特に、子どものための歌・劇が多く残されている。スワルディ (Ki Hajar Dewantaraと改名)と同じ墓地に埋葬されているそうだ。
それで、そのスルヤニングラットという人物、故・土屋健治のインドネシア民族主義研究で有名な、タマン・シスワ運動の創始者であります。
スワルディ・スルヤニングラット(1889-1959)、インドネシアの民族主義者であり教育指導者。(…略…)自国の歴史と文化をに根ざした文化芸術を重視するタマン・シスワ(学童の園の意味)は、政府補助金を拒否することと相まって植民地の公教育制度に対抗する民族主義教育運動となった。1932年には166校に生徒11000人を擁した。現在も幼稚園から大学まで100余の学校を持つが、公教育が量的に拡大する状況下、政府の補助金に消極的で技術教育より人格教育を重視するタマン・シスワは地味な存在にとどまっている(深見純生 執筆 新版東南アジアを知る事典 平凡社 2008 p231-232)という状態であるそうです。
アジア諸国の王室は、日本が典型だが、西洋をモデルにし、西洋化をすすめる力であった場合が多いが、ここジョグジャカルタも例外ではないわけだ。王宮は、ガムランや影絵芝居のような伝統芸能を保護育成するだけでなく、西洋音楽にも力を入れているわけです。上の3番目をオーケストラのみのバージョンで。(これもビデオが面白い。意味不明な部分もあるけど)
Yogyakarta Royal Orchestra – Padhang Bulan Premiered on 11 Jun 2023
この種の歌は、小学校で習い、だれでも知っているようだが、ダンドゥットのライブは少ない。それでも、以下のようなライブはあるわけ。土屋健治が生きていたら、なんて思ったろうね。ああ、わたくしの愛するジャワはこんなことに……、と思うか、それとも、これぞ クジャウェン(kejawen ジャワらしさ)って思うか。
Nella Kharisma - Jaranan 13 Jul 2018 バンドはScorpio 人気絶頂で再生数1億を超すヒットを出していたころのNellaさん、こんな仕事もこなしていました。
天皇皇后のインドネシア訪問に関しては、日本のメディアはやっぱりタブーがあるようで、報道しない部分がたくさんある。まあ、全然興味がないから報道しないかもね。
このジョグジャカルタのスルタンは西欧化改革として一夫多妻を止めたところ、5人の子はすべて女、男系相続の危機に陥ったそうだ。笑っちゃいけないけど、笑いたくなる。それで、スルタンの地位を長女に継がせることになっているらしい。かなり悶着があるようで、やや詳しい英語による報道は、BBCのここを読め。男系維持信者が発狂しそうな話で、現在のスルタンの兄弟が大反対しているらしい。
それから、天皇を迎えたスルタン夫妻は、最高の敬意をあらわす正装をしていたそうだが、jarik(上衣ではなく下の腰布)のモチーフが"babon angrem"というものだという。で、そのバボン・アングレムというのは、メンドリが卵を抱いている姿をデザインしたものなんだって。それが友好をシンボライズするらしい。フェミニストが聞いたら発狂しそうだ。(なお、宮廷内ではヒジャブの着用は禁じられているそうだ)
Sri Sultan Sambut Yang Mulia Kaisar Jepang Naruhito di Keraton Yogyakarta
それにしても、次のような記事を書く人たちって、頭が鎖国状態なのか。日本の歌の話題を取り上げるにしても、もっと他にあるだろうが。