世界の果てでダンドゥット

ダンドゥットは今、現在が一番おもしろいぞ!

Bob Marley: One Love 見たよ、真正ジジババ向け映画だ

妻といっしょに映画館に行くのは『ボヘミアン・ラプソディ』以来だ。館内は我らと同じくらいのジジババカップル、若いといっても20歳代くらいのカップル合わせて10人くらいだった。映画館で見たい人は早めに行かないと上映終了になるぞ。

https://www.bobmarleyonelove.co.uk/synopsis/より

映画としては、山無し落ち無し意味無し。あらかじめボブ・マーリーの生涯と音楽活動を知っている層が、ははあ、これがあのシーンか、と確認しながら細部を楽しむだけ。「アハハ、コクスン・ダッズがピストルぶっ放してる」とか、ロンドンのシーンで、「あ、クラッシュだ!」とか言って盛り上がる映画。まあ、上映中にしゃべるわけじゃないけど。訂正、名前の読み方はドッドかドードであるようだ。アメリカ人なんかダーヅと発音しそうだけど。

Clement "Coxsone" Dodd - Born on January 26, 1934

Studio One - YouTubeより、ミュージシャンは使い捨て、印税なんてどこの世界の話だ、てな態度でジャマイカ音楽の基礎を築いた男。

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このブログで少々書いているように、ボブ・マーリーってミュージシャンは、ジャマイカのポップ・ミュージシャンの中では例外的な人で、ロック~ファンクの文法で解析できる人だ。だからこそヨーロッパや北アメリカの白人にアッピールしたわけだ。

そして、UKやヨーロッパで人気がでた1970年代後半は、ロック・ミュージシャンのダメさ加減が明らかになった時代だ。それで、白人ロック野郎が失ったサムシングを体現する者として、〈ジャマイカのミュージシャン〉としてではなく〈ロックの救世主〉としてまつりあげられたわけだ。

そういう白人連中のジャマイカ理解を不快に思う態度も、この映画の中で多少は描かれる。でも、全体として、平和と独立を訴え、精神世界の優位を信じる、ちょっと変な人ってイメージを固める結果になったのではないかなあ。

1970年代後半には、わたしはロック・ミュージシャンのメッセージなんか興味なくなったし、ミュージシャンの発言と音楽性を結びつけるのも止めていた。

とは言っても、ボブ・マーリーは偉大なソングライターだ。映画の中で流れる歌は1っ曲以外全部知っているし、字幕がジャマなくらい歌詞も判っている。ちなみに、クィーンとレッド・ツェッペリン直撃世代の妻もだいたい曲は判ったそうだ。レコードは1枚も買ったことないのに。10代の素直な感受性は失った頃だけれども、20代の自覚的な感受性はまだまだ健在だったのだ。

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Bob Marley & The Wailers - Greatest Hits At Studio One アメリカ合衆国のソウル・R&Bをコピーしていた時代のもの。こっちのほうが逆にジャマイカ味が濃いのだ。1曲目がOne Loveの最初のバージョン

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追記 

The Wailersともなれば、ウェブ上にレコーディング・データがちゃんとある。

Wailers Recording Session Timeline, 1962 - 1974

1964年65年のレコーディングで、1トラックのテープレコーダー使用。つまりモノラルで完全同時録音だ。サックス、ブラスが4~5人くらいなのだが、ほんとうに全員参加していたのか、ちょっと疑問だ(全員、有名人なのだ!)。映画のシーンと同じく女性コーラスが聞こえるけれども、Beverly Kelso以外にはデータには無し。Beverlyはただ一人生存、元気な姿を見せているWailersのメンバーだ。

17曲目、ザ・ビートルズのカバーでAnd I Love Her。この曲、1965年当時の日本で、ビートルズ・ナンバーでは一番人気があった曲なんだぞ。ホントだってば。

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インドネシアからのボブ・マーリー物カバー、意外と少ない。レゲエ・バンドが溢れていて、ダンドゥット・バンドもレゲエを演っているのに。シロートがギター弾いて歌っているようなものは山のようにあるけど、ちゃんとしたプロの歌手のカバーってYoutube上にあんまりないのだ。

No Woman, No Cry - Grace Amarilis [Bob Marley] 133,340 views  Premiered on 26 Sept 2022 ロケ地 西パプア州Raja Ampat県

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あっと、映画の中で、ちょっとブキミなエピソードがあった。アルバムExodusのタイトルを決めるきっかけなのだが、1960年のアメリカ映画Exodus(日本公開題名「栄光への脱出」)のサントラを聴いているシーンがあるのだ。その映画からタイトルを採ったという話になっている。わたしは見たことないけれど、イスラエル国家建設を描いた映画である。もちろん、シオニスト側から見たもの。

Exodus (Otto Preminger's Original Motion Picture Soundtrack)Ernest Gold 1/14

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こういう映画を無自覚に見てるラスタファリアンというのが不気味だ。アフリカ回帰運動やエチオピア皇帝の崇拝など、現地の人からみたらはた迷惑な妄想だと思うけど。

もし、この映画の完成と公開がもう少し遅ければ、あのシーンは無しにしたのじゃなかろうか。