世界の果てでダンドゥット

ダンドゥットは今、現在が一番おもしろいぞ!

ジャワ語母語話者人口;ネット上の数字が低すぎる

今回はまじめな話題だ。このブログで紹介しているダンドゥットなどの歌の言語について。

いろいろなサイトを見るにつけ、ジャワ語の母語話者、つまりオギャーと生まれて母親や父親、兄弟姉妹やまわりの人がしゃべる言語のを聞いて無意識に身につける言語のことだが、そうやってジャワ語をしゃべる人々の数が少なすぎるということだ。

たとえば、日本の文部科学省のサイトから

世界の母語人口(上位20言語)

これによれば、ジャワ語は世界で12位で、7500万人だそうだ。典拠はThe Penguin FACTFINDER(2005)という古いデータ。ちなみに、ここでも他のサイトでも日本語の母語話者は1億2500万人というデータが多いが、日本の人口をそのまま当てはめただけだろう。

なお、どこから持ってきたデータなのか、ジャワ語話者6000万から7000万人台というデータを載せているサイトがウェブ上に散らばっている。

実は日本だけじゃなく、正確な言語人口調査は、ほとんどの国で行われていない。自己申告から推定するとか、日本や韓国のように、その国が一つの言語を行っていると仮定して数字を出している場合がほとんどだ。ASEAN諸国では、国内に多数の言語集団が居住することを、多様性の指標として肯定的に見たり、観光資源(悪くいえば見世物)にする場合が多いが、公用語だけが真っ当な正しい言語だとする国・地域も少なくない。外国の言語学者がかってに他の国で調査するわけにはいかないのだ。

インドネシアの場合は、2020年の人口センサスのことを、アジア経済研究所の土佐 美菜実研究員が一般向けの記事を書いてくださっている。これ、すげえ面白いことをたくさん書いてくださっているので、ぜひ読んでくれ。

質問票の日本語訳が載っているが、

https://www.ide.go.jp/library/Japanese/Library/Column/2022/images/0107_01.jpg

項目番号408の民族というのがクセモノだ。インドネシア語でsukuというが、帰属意識というかアイデンティティというか、つまり「ワイは何々人じゃああ!」という自己宣言であって、言語学者の使う用語として母語の概念を理解しているわけじゃないのだよね。たとえば、スハルト時代と違い、〈華人、チャイニーズ〉というsukuも認められるようになったが、インドネシアのチャイニーズが北京語をしゃべっているはずはない。華南のさまざまなシナ語族言語だって、子孫に伝わっているか怪しい。たぶん、インドネシア語か英語か、住んでいる土地の言語をしゃべっているはずだ。

あるいは、行政区分として東ジャワ州に属するマドゥーラ島の人々は、「吾輩は、軟弱なジャワ人とは違う、質実剛健なマドゥーラ人であるぞ」という意識を持っている人が多いらしい。でも、実際は日常言語として、ジャワ語とほとんど違わない言葉を使っている場合もあるわけだ。

もう一つ、どこまでが独立した言語か、方言か、という問題もややこしい。このブログで何度も紹介しているバニュワンギ生まれの人たちは、独特のオシン語を使用するらしいが、ジャワ語とどの程度異なるのか、わたしには判断できない。Googleの翻訳では全然ダメな場合が多いけれども、あのグーグル君は、ジャワ語の歌でも所々訳してくれないからねえ。

わたしがよく見るCIA World Factbook Indonesiaにもインドネシアエスニック人口割合が載っている。

Javanese 40.1%, Sundanese 15.5%, Malay 3.7%, Batak 3.6%, Madurese 3%, Betawi 2.9%, Minangkabau 2.7%, Buginese 2.7%, Bantenese 2%, Banjarese 1.7%, Balinese 1.7%, Acehnese 1.4%, Dayak 1.4%, Sasak 1.3%, Chinese 1.2%, other 15% (2010 est.)

これを現在の人口、277,329,163 (2022 est.)に代入すると、1億1千万を超える! これが母語話者人口だと乱暴に推定してしまえば、日本語に次ぐ世界9位の母語話者人口であって、フランス語やドイツ語を超えているはずなんだし、もうすぐ日本語を追い抜くぞ? ちなみに、2020年のセンサスによれば、絶対数では増えているが、割合としては中部ジャワ・東ジャワの比率は減っている。ジャワ文化圏は特殊合計出生率も2.0ぐらいに低下していて、スマトラカリマンタン、スラウェシ、ヌサトゥンガラ、マルク、パプアの比率が増えているのだ。

あんまり信用できないウィキペディアに1980年の言語調査の結果が載っている。

Javanese language - Wikipedia

これによれば、59,298,000人のジャワ語母語話者がいると推定されている。当時の人口147,490,298人の40.2%である。この割合は上のCIAの数値とコンマ1しか違わない。だとすれば、やはり1億1千万の話者人口が存在するのか?

さて、以下はわたしの当てずっぽうな推定だ。

たぶん、日常的にジャワ語を話し、インドネシア語二重言語環境にある人々は、1億人1千万くらいだと思う。学校の教科書はインドネシア語、全国ネットのテレビもインドネシ語だけども、それ以外は家庭でも職場でもジャワ語で暮らす人々だ。この人たちに中にも、古典芸能の語彙は判らんとか、目上の人に話す敬語の使い方が下手だという人はたくさんいるはずだ。

歌の歌詞が判る、歌詞カードを見れば歌えるという人はジャカルタ首都圏やスマトラにもたくさんいると思う。大雑把に言って、インドネシア人の半分くらいはジャワ語の歌を抵抗なく聞けるってことでいいのではないだろうか?

最後にポップ・ミュージック、ダンドゥットをめぐる話をする時に重要なこと。全体の人数では1億人くらいだとしても、0歳から15歳未満、15歳から25歳未満の人口では、日本語話者の人口を超えているってこと。つまりジャワ語ダンドゥットを熱心に聴き、ダンスを踊っている層の人数は、日本語人を超えているのだ。

このブログに検索から飛んできた方たちのために、ダンドゥットとは以下のようなものです。

BOJO GALAK(歌のタイトル) # TASYA ROSMALA(歌手、当時14歳) ADELLA(バンド名) BLANDOK INDAH (ライブの行われた場所、この場合、漁業互助組合みたいな組織か?)2017
169,253 views 19 Nov 2017

www.youtube.com

2022年5月12日追加

総務省の世界の統計2022が出た。

これは便利だが、いろいろ注意が必要。GDPや人口などは最新推定値が載っているが、そのほかの細かい項目、貿易・医療・産業などは、数年前の確定値が載っている。困るのは、国によってデータの最新年が異なること。同じページに異なる年のデータが混じっている。

それから、日本の近隣の国とOECD諸国が中心で、アフリカや中南米はほんの少々だけ。ASEAN諸国でさえ、項目によってはフィリピンやベトナムでさえ無視されるし、ラオスブルネイは載ってない場合のほうが多い。

それで、インドネシアの言語別の人口データ載っているのだが、ジャワ語人口が、68,222,000人だ。これが2010年のデータ。総人口214,063,000人の時。あれ? こんなに少なかった? 細かい注記をみると、5歳以上の人数だ! 別のページでは当時の総人口は236,728,000人である。

2010年5歳以上人口、68,222,000人÷214,063,000=、0.3187、約32%。

2010年の推定総人口236,728,000✕0.3187=75,445,214

2021年の推定総人口276,400,000✕0.3187=88,088,680、まあ生まれたばかりの赤ん坊を入れて8800万人ってことになる。

ちなみに、この総務省世界の統計2022には、インドネシアの民族別人口も載っていて、2010年の総人口236,728,000人の40.2%=95,217,000人となっている。ってことは、ジャワ民族のうち、ジャワ語が母語じゃない人は、

95,217,000人ー75,445,214人=19,771,786、約2千万人の差があるのだが??? 民族別人口の定義が混乱しているから、こういう数字になるのだろう。